PROJECT MANAGEMENT / RISK
リスク管理とは?
対策を決めても終わらない
屋外イベントの準備を通して、リスクを「見つける・優先する・備える・見張る」までを理解しよう。
最初に覚えるのは、用語ではなくこの状況です。
来週の土曜日、あなたが企画した屋外フードイベントが開かれます。「雨ならテントを用意しよう」と決めました。ところが、前日になって大雨予報に変わったのに、誰もテント会社に連絡していませんでした。対策を考えたことと、実際に危険を減らしたことは別です。
雨の予報が出た。テントを考えたから安心?
町内会のフードイベントで、出店10店舗・来場見込み300人。会場設営は朝8時、開場は11時です。イベントの成功条件は「お客さんと店員が安全に過ごせること」「予定時刻に営業を始められること」「予算内に収めること」。
準備会議で「雨が降るかもしれない」と話し合い、テントのレンタル先を調べました。しかし予約していなければ、雨の当日に借りられないかもしれません。予約済みでも、風が強くて設営できないかもしれません。決めた対策が実行されるか、実行して本当に役立つか、当日まで監視する必要があります。
『リスク』は、まだ起きたと決まっていないこと
雨で中止になること、音響機器が故障すること、仕入先の配送が遅れること。これらは将来起こるかもしれない不確実な事象です。
実際に雨が降って電源が壊れたら、それは発生済みの問題(issue)です。リスク管理は問題が起きる前から始まり、発生後の対応にもつながります。
4つの行動は、ひと続きの仕事
JIS Q 21500:2018に示されるリスク関連の4つのプロセスを、イベント主催者がする質問に置き換えます。
リスクの特定
何が起こり得る?
雨、停電、食材不足などを洗い出す。
リスクの評価
どれを優先する?
起こりやすさと影響の大きさを見積もる。
リスクへの対応
起きる前に何をする?
テント予約、予備電源、代替仕入先などを決める。
リスクの管理
決めたことは実行され、効いている?
担当者、期限、天気予報、対策の実効性を追い続ける。
これは一度通って終わる直線の工程ではありません。監視中に新しいリスクが見つかれば、また特定・評価・対応に戻ります。
特定:心配事を、行動できる言葉にする
「天気が心配」だけでは対策を決めにくくなります。原因・出来事・影響を分けて考えます。
1. 原因・条件
前線が近づき、強い雨が降る
2. 起こる事象
屋外の電源設備が使えなくなる
3. 目標への影響
調理できず開場が遅れる
「雨に備えよう」から「雨で電源が故障すると販売できなくなる」へ具体化すると、必要な予防策や監視項目が見えてきます。
評価:全部に同じお金をかけない
台風による中止と、装飾の風船が数個割れることを、同じ優先度で扱うのは非現実的です。起こりやすさと影響を考え、対応に使える人員・お金・時間を配分します。
| 候補 | 可能性 | 影響 | 考え方 |
|---|---|---|---|
| 豪雨で会場が使用不可 | 中 | 非常に大 | 早めの決定条件が必要 |
| 音響機器の故障 | 中 | 中 | 代替機材があれば回復可能 |
| 風船が割れる | 高 | 小 | 多くの準備費をかけない |
単純な「発生確率×損失額」は比較の補助になりますが、金銭で評価しにくい人命・法令・信用に関わる問題は、それだけで機械的に決められません。
対応:具体的な手段と発動条件を決める
「雨に注意」は対策ではありません。「木曜17時時点の予報で降水確率が一定以上なら、担当の佐藤さんが屋内会場への変更を決定する」まで決めると動けます。
回避(避ける)
屋外開催をやめ、最初から屋内会場に変更する。雨による中止リスクを根本から取り除こうとする。
低減(起こりにくく・被害を小さく)
電源に防水カバーを設け、テントを予約する。雨そのものは止められなくても影響を減らす。
移転・共有
一部の損失を保険や契約で他者に移す。ただし主催者の責任や運営上の問題がすべて消えるわけではない。
受容(受け入れる)
小さな装飾破損は予備品で補い、大きな予防費用をかけない。対応しない判断も根拠と担当が必要。
ここで決めた「起きたら切り替える手順」は、コンティンジェンシー計画(不測の事態に備えた代替・緊急対応の計画)と呼ばれます。
管理:対策が紙の上で止まっていないか
この章が中心です。前もって「テントを借りる」と決めても、実際に予約されたか、納品日時は確定したか、強風でも使えるか、当日の担当は連絡先を知っているかを確認しなければなりません。
CHECK 1
実行確認
予約番号・納品時刻は確認した?
CHECK 2
効果確認
予報が変わっても安全に開催できる?
CHECK 3
変化の監視
新しいリスクや発動条件は出た?
重要なのは、対応を実行するかどうかの判断と、実行した対応が期待した効果を出しているかの確認を繰り返すことです。準備した対応が不十分なら、再評価して新しい対応を選びます。
時間の流れで見る『決めた』と『効いた』の違い
週末の雨予報。会場の電源が使えなくなる可能性に気づく。
防水対策と屋内会場への切替を決め、責任者と期限を記録。
業者の予約が未完了と判明。担当者に連絡して手配。
雨予報が強まり、防水対策だけでは危険と判断。屋内切替を発動。
来場者を安全に受け入れた。次回に備えて判断の遅れを記録。
リスク管理は、問題が起きないときにも仕事をしています。もし「水曜の確認」を省けば、金曜になってもテントが予約されていないかもしれません。
リスクには、得られるチャンスもある
プロジェクトのリスクは「悪いこと」だけではありません。イベント当日に近隣の人気店が急きょ出店できそうになったら、集客や売上が想定より伸びる機会(プラスの不確実性)にもなります。
ただし、歓迎するだけでは機会を生かせません。出店スペースや必要な電源を手配し、実際に出店できたか、集客に効果があったかを確認します。脅威でも機会でも「想定した効果が本当に出たか」が重要です。
操作ラボ:雨予報が変わったら何を確認する?
リスクを見つけたあと、対策を決めた状態と、担当者が実行して効果を確認した状態では何が違うでしょうか。天気予報と対応状況を変えて確かめてください。
イベント運営・リスク監視ラボ
想定シナリオを操作する教材です。実際の天気や安全性を判定するものではありません。
影響:中止・転倒・感電の可能性
対策案:屋内会場への切替
黄色いゲージは兆候の大きさ。しきい値の増減は組織のルールの変更を模したものです。
現場での読み取り
対応の発動条件に達しています。対策は決めただけでは守れません。実行状況を確認し、必要なら担当者へ連絡してください。
現場では『リスク登録簿』を更新する
大切な情報が各自の頭の中だけにあると、担当者が休んだ日に確認できません。簡単な一覧に残します。
| 想定する事象 | 兆候・発動条件 | 対応 | 担当 | 確認すべき証拠 |
|---|---|---|---|---|
| 豪雨で設備が使えない | 前日予報で大雨・強風 | 屋内に切り替え | 運営責任者 | 会場の予約確認・関係者への通知記録 |
「リスクが残っているか」「状況が変わったか」「担当が対応済みか」「対応の効果を確認できたか」を更新し、必要なら新たなリスクや問題も追加します。なお、古い規格の4分類をそのまま現在のすべての方法論へ一対一で当てはめる必要はありません。ここではJIS Q 21500:2018のプロセス名に沿って説明しています。
まとめ:リスク管理は見張り続ける仕事
特定:何が起こり得るか。
評価:どれほど優先するか。
対応:何をするか決める。
管理:決めた対応を実行すべきか判断し、実行と効果、状況の変化を確認する。
完璧な計画を最初から作ることはできません。状況を見て、必要なら判断を更新できることこそ、プロジェクトを守る力になります。