ナッシュ均衡とは?「自分だけ変えても得しない」を利得表で理解する
二人が互いを意識して選ぶとき、「誰も自分だけ方針を変えたがらない組合せ」があります。これをナッシュ均衡と呼びます。
まず結論
ナッシュ均衡 = 相手の行動を固定したとき、どちらも「自分だけ変更しても、今より得にならない」戦略の組合せ。
「全員にとって一番幸せな結果」という意味ではありません。全員が自発的に動く理由を失っている、という安定性の概念です。
1. 身近な例:2店の値下げ競争
近くにあるA店とB店が、同じ商品を「通常価格」か「値下げ」で販売します。両店の利益(単位:万円)を、例として次のように設定します。
| A店 \ B店 | 通常価格 | 値下げ |
|---|---|---|
| 通常価格 | (5, 5) | (1, 7) |
| 値下げ | (7, 1) | (3, 3) ★ |
(A店の利益, B店の利益)です。たとえば(7, 1)ならA店が7万円、B店が1万円の利益を得ます。
B店が通常価格でも値下げでも、A店は値下げの方が得です。B店も同様です。したがって両店が値下げした(3, 3)がナッシュ均衡になります。
ところが両店とも通常価格の(5, 5)の方が、両店にとって利益が大きいのです。「ナッシュ均衡=全員にとって最高の結果」ではないことが分かります。
2. 利得表の読み方:相手を固定して比べる
ナッシュ均衡を探す際は、一度に両者を動かさないことが大切です。
- B店の選択を固定し、A店だけが戦略を変えたらどうなるかを比較する。
- 今度はA店の選択を固定し、B店だけが戦略を変えたらどうなるかを比較する。
- 双方にとって現在の戦略が最適反応であれば、そこがナッシュ均衡。
3. 支配戦略がある場合・ない場合
支配戦略とは、相手の選択にかかわらず自分にとって(他の戦略以上に)有利な戦略です。先ほどの値下げ競争では、双方の「値下げ」が支配戦略です。
一方、支配戦略がなくてもナッシュ均衡は成立します。二人が同じ行動を選ぶと得になる「協調ゲーム」では、(通常, 通常)と(特別, 特別)のように、均衡が2つ存在する場合があります。
さらに、純粋戦略(行動を一つに決める)では均衡が存在せず、確率を混ぜる混合戦略で均衡を考えるゲームもあります。試験の基本問題では、まず利得表から双方の最適反応を調べる方法を押さえましょう。
4. 操作ラボ:自分だけ戦略を変えると?
表のマスを選び、両者の現在の利益と「Aだけ変更」「Bだけ変更」の結果を比較してみてください。ゲームを切り替えると、均衡が1つのケースと2つのケースを試せます。
A店とB店が同じ商品を売ります。相手が価格を変えないとしたら、自分だけ価格を変更すると利益はどうなるでしょう?
利得の表記:(Aの利益, Bの利益)/単位は例示上の数値
| A \ B | 通常価格 | 値下げ |
|---|---|---|
| 通常価格 | ||
| 値下げ |
現在の組合せ
A:通常価格
B:通常価格
(5, 5)
Aだけ戦略変更
Aの利益:5 → 7
Aには変更する動機がある
Bだけ戦略変更
Bの利益:5 → 7
Bには変更する動機がある
この組合せはナッシュ均衡ではありません
少なくとも一方が、自分だけ選び直すことで利益を増やせます。
※ 教材用に設定した数値例です。均衡判定は「他方の行動を固定し、一方だけ行動を変更したときに利得が増えるか」で計算しています。
5. 4つの選択肢を混同しない
| 問73 | 用語 | 何に注目するか |
|---|---|---|
| ア | ゼロサムゲーム | 参加者の利得の合計がゼロとなるゲーム |
| イ | ミニマックス | 相手の得る最大利得をできるだけ小さくする考え方 |
| ウ | マクシミン | 自分の最小利得が最大になるように選ぶ考え方 |
| エ(正解) | ナッシュ均衡 | 自分一人だけ戦略を変更しても利得を増やせない組合せ |
ゼロサムは利得合計の性質、ミニマックス・マクシミンは戦略選択の考え方、ナッシュ均衡は複数人の戦略の組合せの性質です。比較しているもの自体が異なります。
6. セキスペにもつながる「相手を見て判断する」視点
セキュリティ対策でも、守る側と攻撃する側の意思決定が互いに影響します。たとえば防御コストが増えると攻撃者の狙う対象が変わり、攻撃者の行動が変わると防御の優先順位も変わります。
ただし、現実の攻撃者の動機・情報・行動は不確実であり、単純な2×2のゲームだけで予測できるわけではありません。ここでは「相手の行動を考慮し、自分の最適な選択が変化する」という見方を身に付けるのが目的です。