予定・成果・支出の3つで考える
EVMとは?
進捗と予算を同時に見える化する
「予算は予定どおり使ったのに、仕事は半分も終わっていない」。そんなプロジェクトの問題を、ひと目で見つけるための考え方がEVM(Earned Value Management)です。
身近な例:100万円でWebサイトを作る
制作会社がお店から120万円で受注したWebサイトを作ります。社内では原価100万円、期間10週間で仕上げる計画です。つまり、計画どおりなら利益は20万円です。5週目が終わった時点で、チームに次の3つを尋ねました。
予定では?
50万円分
半分の期間が過ぎたので、予定どおりなら予算換算で50万円分の作業が完成しているはず。
実際の完成量は?
40万円分
完成したページなどに、当初割り当てていた予算の合計は40万円。
実際の支出は?
60万円
外注費や人件費など、ここまでで実際に使った費用は60万円。
これだけで「進み具合は遅く、費用はかかりすぎ」ということが分かります。ただし、ここでの40万円分の成果は売上ではありません。顧客から受け取る120万円の対価と、社内の原価管理を分けて考えるのが重要です。
最初に利益と原価を分けて考える
ビジネスでは「完成までにいくら使うか」だけでなく、「顧客からいくら受け取るか」も重要です。EVMは主に予定した作業と原価を管理する道具であって、利益そのものを示す指標ではありません。
顧客との契約金額
120万円
制作会社が顧客から受け取る対価。ここでは途中の追加契約はないものとします。
社内の原価予算(BAC)
100万円
人件費・外注費など、完成までに使う計画の原価。
当初の予定利益
20万円
契約額120万円 − 予定原価100万円。その他の費用は省いた例です。
| 完成時の姿 | 契約額 | 完成までの原価 | 最終的な利益 |
|---|---|---|---|
| 計画どおり | 120万円 | 100万円 | +20万円 |
| 原価が膨らんだ | 120万円 | 150万円 | -30万円 |
| 原価を節約した | 120万円 | 90万円 | +30万円 |
ここで大切なのは、「PV=EV=AC」なら管理上の計画と実績が一致しているだけで、黒字とは限らないことです。そもそも90万円で契約して原価予算が100万円なら、予定どおりに進めても10万円の赤字です。
まず「何が完成したか」を数える
進捗会議で「60万円使いました」と聞いても、順調かどうかは分かりません。外注費が高かっただけかもしれないし、ほとんどのページが完成したのかもしれないからです。そこで最初に、作業を小分けにし、それぞれに予算を付けておく必要があります。
| 作業 | 元々の予算 | 5週目の状態 |
|---|---|---|
| 商品ページ | 20万円 | 完成 |
| 店舗紹介ページ | 20万円 | 完成 |
| 予約フォーム | 30万円 | 作業中・未完成 |
| 管理画面 | 30万円 | 未着手 |
ここでは「完成した作業だけを100%として計上する」という簡単な計測ルールにします。完成した2ページに当初割り当てた予算は、20万円+20万円=40万円。これが「いま手元にある完成成果を、計画予算で表した金額」です。実務では部分完成の評価方法も事前に決めます。
予定・成果・支出を一つの物差しで並べる
ここで初めてEVM(Earned Value Management:出来高管理)の用語を付けます。言葉を覚える前に、3つの数字がそれぞれ誰への質問の答えかを見てください。
計画担当者への質問 → PV(Planned Value)
「5週目までには、どの作業が終わる予定でしたか?」 答えを予算で換算すると50万円分。まだ払っていないお金も含む、計画上の仕事量です。
制作担当者への質問 → EV(Earned Value)
「5週目までに、実際に何が完成しましたか?」 完成物に割り当てた予算を合計すると40万円分。実際の仕事量を示します。
経理担当者への質問 → AC(Actual Cost)
「ここまでの作業に実際いくらかかりましたか?」 外注費・人件費などが60万円。こちらは仕事量ではなく、実際の費用です。
3つの答えを同じ金額軸で見る
5週目までに終わらせる予定だった作業の予算:50万円
完了した作業に元々割り当てていた予算:40万円
ここまでの人件費や外注費:60万円
総予算100万円に対する長さを描いた図です。棒はすべて「お金を払った額」を意味するわけではありません。
二つの問いで、問題の場所が分かる
問い①:予定した仕事は終わった?
予定表では50万円分の仕事が完成するはずでした。けれど実物としてできているのは40万円分。つまり予定していた仕事のうち10万円分がまだできていない状態です。
これが進捗の問題。遅れを取り戻すには、未完成の予約フォームで何が詰まっているかを調べます。
問い②:その完成物にいくら使った?
完成したのは計画上40万円分の仕事ですが、費用は60万円かかりました。つまり当初40万円で完成させる想定の仕事に、60万円投入した状態です。
これがコストの問題。手戻りや追加作業が費用を増やしていないかを調べます。
重要なのは、二つが別の問題だということです。例えば人を追加すれば、作業の遅れは縮まっても、支出は増えることがあります。「進捗が良い」と「コストが良い」は同じ意味ではありません。
この差を数値化した名前が、進捗の差 SV(Schedule Variance)=完成した仕事の価値 − 予定した仕事の価値、コストの差 CV(Cost Variance)=完成した仕事の価値 − 実費です。例ではSVが −10万円、CVが −20万円。式は判断のための出発点ではなく、先ほど理解した差を記録する表現です。
「効率」は、何円分の仕事が進んだか
差額が同じ20万円でも、100万円規模の案件と1億円規模の案件では重みが違います。そこで、投入したもの1単位あたり、どれだけ成果が得られたかも調べます。
費用の使い方:CPI
60万円かけて40万円分の仕事が完成しました。1万円使うごとに、計画上の仕事が約0.67万円分進む計算です。
CPI(Cost Performance Index)=40 ÷ 60 ≒ 0.67
予定に対する進み方:SPI
今日は50万円分の仕事が終わる予定でした。実際は40万円分なので、この時点の予定作業量の80%を達成したことになります。
SPI(Schedule Performance Index)=40 ÷ 50 = 0.80
もし今の費用の使い方が最後まで続くなら、100万円分の仕事を完成させるのに約150万円かかる見込みです(正確には100 × 60 ÷ 40)。これが完成時総費用の予測 EAC(Estimate at Completion) です。契約金額が120万円のままなら、予定20万円の黒字が、30万円の赤字見込みに変わることになります。ただし、残りの仕事の難しさや改善策が変われば予測も変わります。
SPIは工期そのものの割合ではありません。完了時期の推定には、残作業の所要時間・工程の依存関係などを別に確認する必要があります。
EVMのグラフは、物語として読む
元の資料のグラフも、線の上下を暗記する必要はありません。ある時点で「予定していた仕事量の線」「実際に完成した仕事量の線」「実際に使った費用の線」を指でたどり、次のように読めば十分です。
- この日までに、どこまで完成している約束だったかを確認する。
- 本当に完成した仕事がその約束に届いているかを確認する。届かなければ、どの作業が未完成なのかを現場に聞く。
- 実際の成果を作るのに、予定していた費用より多くかかっていないかを確認する。多ければ手戻りや追加対応を調べる。
① 予定・成果・費用がそろう状態
5週目に予定50万円分が完成し、原価も50万円。3つの線は重なります。契約額120万円なら完成時の予定利益は20万円です。
数値は解説用に設定した架空の累積推移です。線が重なる場合は緑を破線にして示しています。
② 完成が遅れ、費用が余計にかかる状態
5週目に予定50万円分、完成40万円分、原価60万円。今の効率が続くと総原価150万円で30万円の赤字見込みです。
数値は解説用に設定した架空の累積推移です。線が重なる場合は緑を破線にして示しています。
均衡が取れているとは?
予定の50万円分が本当に完成し、その仕事に50万円を使った状態です。約束した仕事量・実績・支出が一致します。ただし受注金額や利益の良し悪しは別で、品質まで保証するものでもありません。
3本の線が離れたら?
まず予定と完成量のずれを見て、未完成の作業を探します。次に完成量と支出のずれを見て、手戻りや追加費用の原因を調べます。
均衡した状態を基準にすると、「なぜ離れたか」を自然に考えられます。予定より早く進みながら費用がかさむケースもあり、良し悪しをひとまとめにはできません。
今回のグラフでは、完成した仕事が予定に届かず、その完成量に対して実費が大きいと読み取れます。同じ状態が続くなら、当初より費用が増え、完了も遅れる見通しです。EVMは線の位置を当てる技術ではなく、現場で何を確認し、どう立て直すかを考えるための早期警報です。さらに完成までの費用予測を契約金額と比べることで、利益が残りそうかも検討できます。
数字を変えてEVMを体験する
まず「予定していた成果」と「実際にできた成果」を比べ、次に「その成果に何円かけたか」を考えましょう。数字を動かしたとき、現場で起きた出来事を自分の言葉で説明できるかがポイントです。
完成した仕事と支出を読み解くラボ
まず「何が完成する予定だったか」、次に「何が完成したか」、最後に「いくら使ったか」を順番に考えましょう。
① 数字を動かす
自由に関係を比較する教材です。実案件では通常、PV・EVは承認済みの予算基準に沿って管理します。
② 現場の出来事に置き換える
予定より成果が少ないため、進捗は遅れています。
成果に比べて実コストが高く、予算超過です。
累積グラフ:今の状態を線で読む
左が開始時、右が5週目。途中は説明用に直線でつないでいます。
PV(予定)
50万円
EV(完成)
40万円
AC(支出)
60万円
完成した仕事と支出の差
-20.0万円
コスト超過
予定と完成した仕事の差
-10.0万円
進捗遅延
CPI = EV ÷ AC
0.67
コスト効率
SPI = EV ÷ PV
0.80
進捗効率
③ 完成時コストの簡易予測(EAC)
150.0万円
BAC ÷ CPI = 100 ÷ (40 ÷ 60)。現在と同じコスト効率が続くと仮定した試算です。実際の予測は残作業の条件によって変わります。
④ 受注金額と総原価から、完成時の利益を考える
利益はEVではなく、顧客との契約額 − 完成までの総原価で考えます(税金や共通費、追加契約などは省略)。
顧客との契約額
120万円
当初の予定利益
20万円
完成時の利益予測
-30.0万円
このままなら赤字見込み。作業方法の改善、追加費用の交渉、要件の調整などを検討する場面です。
これは契約額が固定され、現在のコスト効率が最後まで続くという単純なモデルです。売上計上や実際の請求・入金のタイミングを表すものではありません。
最後に:数字は現場へ質問するための道具
PVは計画、EVは実際に完成した成果の原価予算換算、ACは実際にかかった費用。EVMは、この3つを同じ尺度で並べることで、進捗とコストの問題を早めに発見する管理手法です。
特に「お金を使った=仕事が進んだ」ではないことが出発点です。数値に違和感があれば、作業の完成条件・手戻り・追加要件を確認します。差異の符号を暗記するだけでは、改善にはつながりません。契約金額・原価の見通し・最終利益も切り分けて確認します。