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CRYPTOGRAPHY / SECURITY

CRYPTREC暗号リストとは?推奨・候補・運用監視の違いを図解

会社のシステムで顧客情報を暗号化するとき、「暗号化しているから安心」とは限りません。どの暗号方式を選ぶか、どれだけの長さの鍵を使うか、今後も使い続けられるかを考える必要があります。その選定を支援する日本の基準資料の一つがCRYPTREC暗号リストです。

この記事で押さえる3点

  1. CRYPTRECは暗号技術を評価し、政府調達向けに参照するリストを整備する活動
  2. 「推奨」「推奨候補」「運用監視」は、評価と利用上の位置づけが異なる
  3. リストへの掲載だけでシステム全体の安全性が保証されるわけではない

1. そもそもなぜ暗号リストが必要なのか

暗号アルゴリズムには共通鍵暗号、公開鍵暗号、電子署名、ハッシュ関数など多くの種類があります。名前が有名だからといって、安全性、実装性能、利用実績まで十分とは限りません。逆に、新しい方式が有望でも、利用実績がまだ限られていることがあります。

サービス担当者

会員情報を安全に保管したい

↓
暗号技術の評価

安全性・実装性能などを調べる

↓
調達・設計担当者

評価結果と要件を照合して選ぶ

模式図:評価結果は「採用を決めるための材料」。実際の設計判断はシステム側で行う。

CRYPTRECは、デジタル庁・総務省・経済産業省による電子政府向けの暗号技術評価・選定に関わる活動です。リストは政府機関の調達や設計で参照され、民間で暗号方式を検討する際の資料としても利用できます。

2. CRYPTREC暗号リストは3つの区分からできている

この3つは、優秀な暗号を1位・2位・3位に並べる順位表ではありません。その技術をどのような位置づけで扱うかを示す区分です。

採用の基準

電子政府推奨暗号リスト

安全性・実装性能を確認。市場での利用実績が十分、または普及が見込まれ、利用を推奨する技術

将来の候補

推奨候補暗号リスト

安全性・実装性能を確認。将来、電子政府推奨暗号リストへ掲載される可能性がある技術

互換性のため限定容認

運用監視暗号リスト

安全性上の懸念などで推奨すべき状態ではないが、既存システムとの互換性維持のため継続利用を容認する技術

電子政府推奨暗号リスト

安全性や実装性能の評価に加えて、利用実績や普及の見込みも考慮した、政府システムでの利用を推奨する技術の一覧です。「推奨」とはいえ、適切な鍵長・モード・プロトコルを選び、安全に実装して運用する必要があります。

推奨候補暗号リスト

安全性および実装性能が確認されており、将来、電子政府推奨暗号リストに入る可能性がある技術です。「安全性が未確認」だから候補という意味ではありません。安全性の評価と、普及・利用実績などの採用条件は別の観点です。

運用監視暗号リスト

推奨すべき状態ではなくなった技術でも、古い製品との通信など、互換性を維持しなければ業務が止まる場合があります。そのため、互換性維持を目的とする継続利用が容認される場合があります。新規システムへ積極的に採用するための区分ではありません。

「運用監視」という言葉に注意

運用監視システムで使う暗号、という意味ではありません。暗号技術のリスクや状況を見極めつつ、既存システムとの互換性を目的とした限定的な利用を扱う区分です。

3. 暗号技術の役割も分けて理解しよう

技術の種類解決したい問題身近な例
共通鍵暗号同じ秘密鍵を使って内容を暗号化・復号保存データの暗号化
公開鍵暗号・鍵共有公開鍵と秘密鍵を利用した暗号化や安全な鍵共有TLSなどの通信
電子署名作成者の確認・改ざん検知電子契約、ソフトウェア配布
ハッシュ関数データから固定長の要約値を計算ファイル整合性確認

これらの役割は異なります。例えばハッシュ関数は、暗号化と復号のための暗号方式ではありません。「暗号関連技術」と一口にいっても、求める機能に適した種類を選ぶ必要があります。

4. 「3区分」と「技術の種類」は別の軸

例えば「共通鍵暗号か電子署名か」は何に使う技術かという軸です。一方、「推奨暗号・推奨候補・運用監視」は採用上どの位置づけかという軸です。この2つを混ぜないことが大切です。

分類を2軸で考える

縦軸:共通鍵暗号 / 署名 / ハッシュ / 鍵共有 ...

横軸:推奨 / 候補 / 運用監視

「署名方式のうち、推奨区分に属する仕様は?」というように調べます。区分や個別仕様は最新版の公式リストで確認してください。

5. 証明書失効リスト(CRL)とは何が違う?

名前に同じ「リスト」がつくため混同しやすいですが、まったく異なります。CRYPTREC暗号リストは暗号技術を評価・分類した資料。CRL(Certificate Revocation List)は有効期限前に失効した電子証明書の情報を提供する仕組みです。

CRYPTREC暗号リスト

どの暗号技術・仕様を選ぶかを検討するときの資料

対象:暗号方式・仕様

CRL(証明書失効リスト)

漏えいや廃止などで失効した証明書を確認するための情報

対象:電子証明書

6. リスト掲載だけでは安全なシステムにならない

暗号アルゴリズムが推奨されていても、弱すぎる鍵長、誤ったモード、乱数の不備、秘密鍵のずさんな管理などがあれば安全性は損なわれます。採用の際は暗号アルゴリズム、鍵長、暗号を利用するプロトコル、鍵管理、実装・運用方法を一緒に確認します。

安全な採用判断のイメージ

① 必要な機能を決める(暗号化・署名・鍵共有など)
② CRYPTRECの最新リストと仕様書で候補を確認する
③ 必要な暗号強度・鍵長・適切な利用条件を確認する
④ 鍵管理・ソフトウェア更新・実装方法をレビューする
⑤ 将来の移行計画・互換性・運用監視を定める

7. 2026年の更新と耐量子計算機暗号

公式CRYPTRECサイトによると、リストは2026年3月30日に更新され、耐量子計算機暗号(PQC)の鍵共有技術であるML-KEMが電子政府推奨暗号リストに追加されました。暗号技術の評価は一度決めれば終わりではなく、計算能力や研究、実装の普及に応じて見直されます。

そのため、古い教材や設計資料に載っている分類を、現在の調達判断にそのまま使うべきではありません。個別方式の掲載区分、利用可能な仕様と鍵長については、公式の最新版と関連する設定基準で確認しましょう。

8. 区分と採用判断を操作して確かめる

次のラボは、3区分の意味と「実際に採用してよいか」の判断材料を理解するための学習用シミュレーションです。架空のシステム要件を選び、互換性の必要性、鍵長の確認、鍵管理などを切り替えます。

INTERACTIVE LAB

CRYPTRECの掲載区分と採用判断を試す

これは架空の判断練習です。実際の掲載技術や調達要件を判定するものではありません。

1. システムの状況
2. 今回の技術の掲載区分
3. 安全な実装・運用の準備

選んだ掲載区分

電子政府推奨暗号リスト

現行の推奨

安全性・実装性能に加え、十分な利用実績や普及の見込みなどを踏まえて推奨される区分。

利用条件・鍵長・プロトコルと鍵管理を確認して採用を検討します。

判断の手順

これから設計するシステムです。古い装置との互換性は必須ではありません。

チェック結果

この簡略モデルでの明確な注意項目はありません。ただし、実際の採用可否には公式リストの個別条件や組織の基準による審査が必要です。

9. まとめ

電子政府推奨暗号リストは推奨技術、推奨候補暗号リストは将来の推奨候補、運用監視暗号リストは原則として新規採用を避け、互換性維持のため限定的に容認される技術の区分です。

そして、CRLは証明書の失効情報であり、CRYPTREC暗号リストとは目的が違います。実務では最新版の掲載状況と使用条件を確認してください。

参考:CRYPTREC公式「CRYPTREC暗号リスト」「CRYPTREC暗号の仕様書」「新着情報」。2026年10月時点の公式情報を参照。ラボで用いる判断ロジックは学習用の簡略化モデルであり、具体的な技術の採用可否や法令・調達要件への適合性を保証しません。